大阪地方裁判所 昭和40年(ヨ)2680号 判決 1966年3月31日
申請人 東厳 外二名
被申請人 関西電力労働組合
主文
被申請人が、申請人らに対し、昭和四〇年六月一〇日なした、組合員としての権利を一年間停止する旨の処分の効力はこれを仮りに停止する。
訴訟費用は被申請人の負担とする。
(注、無保証)
事実
申請人ら代理人は、主文同旨の裁判を求め、申請の理由として
第一、処罰とその理由
申請人らは、いずれも被申請人組合(以下関労という)の組合員であるところ、関労は、昭和四〇年六月一〇日、申請人らに対し、申請人らの組合員としての権利を一年間停止する旨(以下これを本件懲戒処分という)を通知したが、その理由とするところは関労は、昭和三九年一二月二二日、その組合員に対し、同日開催された第七一回本部委員会の承認決議(以下本件承認決議という)を経た一般指令一号として「昭和四〇年度の参議院議員選挙を斗いまたその他の政治活動のため、一般指令で一月賃金より臨時費として組合員一人あたり金二〇〇円を徴収する。その内訳は、参議院議員全国区選挙のため電労連上納分として一〇〇円、同地方区選挙のため五〇円、政治活動基金として五〇円とする。」旨の臨時費徴収を指令したのに、申請人らが、これに違反してその臨時費を支払わないことは、関労の組合規約第六八条第一項に該当する、というのである。
第二、処罰の無効
しかしながら、本件懲戒処分は次の理由により無効である。
一、本件承認決議および一般指令一号は組合員に対する法的拘束力を有せず申請人らの所為は規約上の懲戒事由に該当しない。
申請人らが支払を拒んでいるのは、一般指令一号にいう臨時費のうち、参議院議員選挙における電労連上納分としての一〇〇円と同じく地方区選挙のための五〇円であり、前者は全国区民主社会党候補者のためのもので、後者は地方区における民主社会党および社会党候補者のためのもので、ともに特定政党のための選挙活動資金として用いられるもので、このように主として民主社会党のための選挙運動資金を支払うことは申請人らの政治的信条と良心に矛盾するため已むなくその支払を拒んでいるのである。そして、労働組合は、本来労働者としての共通の利害に基く要求の一致によつて団結する大衆組織であつて、政治的思想的立場の一致に基いて団結する組織ではない。したがつて、そこでは組合員の政治的、思想的立場に相違の存することは当然前提とされているのであるから、仮りに組合員の多数が特定の政党を支持している場合においても、組合がそのことを理由に組合員に対し特定政党支持を義務づけたり、また特定政党の候補者のための選挙運動資金に用いる目的で、強制的に徴収することができ、かつその違反に対しては指令違反として処罰を加えることのできる臨時費としてその徴収を決定することは許されない。したがつてこれに違背した本件承認決議およびこれに基いてなされた一般指令一号は、組合員に対し法的拘束力を有しないから、申請人らの所為は何ら前記規約第六八条第一項に該当しないものというべく、本件懲戒処分は無効である。
二、仮りに右の主張が理由がないとしても、本件懲戒処分は統制権の濫用である。
(一) 労働組合の統制権は、本来労働組合が組合員の労働条件や経済的地位の向上改善をはかり、資本からの圧力に対抗して団結を保持して行く上に必要な限度でその発動が許されるものであるから、これと異なる組合の政治活動の分野においては、組合員個人の政治活動の自由を侵害し或いはその政治的良心を傷つけないよう慎重な配慮が必要であるのに、本件懲戒処分においてはこれを欠いている。すなわち、
(二) 従来、特定政党のための政治活動資金は、すべて任意カンパ方法により徴収されて来た。例えば、昭和三七年度の参議院議員選挙の分については、同三六年一一月一七日第五一回本部委員会は、臨時費徴収に関する本部執行委員会提案を、さらに下部討議を経て次期本部委員会で検討することとし、同年一二月一二日第五二回本部委員会は、電労連納入分一人当り一〇〇円のみとりあえず本部会計から送金し、これが組合員からの徴収方法については、本部委員会の開催如何も含め本部執行委員会で決定することと定め、同月一五日第二六回本部執行委員会は、これを受けて「今回は任意カンパとする。将来のことは次期大会までに提案できるようにする」と定めて自己提案にかかる臨時費徴収案を撤回した。その後の衆議院議員選挙でも一人当り二五〇円を任意カンパの方法により徴収している。そして、同三九年八月の第一三回定期大会では、それまでの公職選挙に関する政治活動関係諸規程についての下部機関によるいわゆる大衆討議の結果(各地区の意見はまちまちで反対意見も多かつた)を勘案してさらに一年間啓蒙運動を行つたうえ、同四〇年度の大会に再提案することと決定された。したがつて、今回の臨時費徴収の本部委員会の承認決議はこれと矛盾するものであり、かつその間組合の下部機関によるいわゆる大衆討議の機会は少しも与えられていない。
(三) そこで申請人らは、本件一般指令一号について、前記理由から再三関労の機関宛に異議を申立て再検討を要請し、とくに政治活動基金五〇円は支払う旨申し出たが、そのほかにも多くの反対者があり、それらの中には、支部、分会でまとまつて反対意見を表明し、また、申請人らと同じく再検討や職場討議を要請した者もいた。しかるに、関労はこれらに対して何一つ適切な方法をとらず、本部指令であるとの形式論で押しとおそうとしている。
(四) また、関労においては、一般指令の用語は、「メーデーへ全員参加せよ」等組合員に対する呼びかけをなす場合に用いられ、斗争指令の用語は、使用者に対する要求貫徹の手段として組合が斗争に際して発する場合に用いられており、従来、斗争指令違反に対しては懲戒処分がなされた例があるけれども、本件のような一般指令違反に対して懲戒処分がなされたことはないのに、本件臨時費徴収にあたつては、これに反対する申請人らを含む少なからぬ組合員を懲戒に付している。
(五) これらの諸事情からみれば、本件懲戒処分は統制権の濫用によるもので無効である。
第三、仮処分の必要性
以上の次第で、申請人らは関労(被申請人)に対し本件懲戒処分の無効すなわち組合員としての完全な権利のあることの確認の本訴を提起すべく準備中であるが、その判決の確定をまつていては権利停止期間の事実上の徒過により救済される機会を逸して回復し難い損害を受けることになるので、本申請に及んだ。
と述べ、
被申請人の主張事実中組織内候補者であると主張する片山武夫は当時東京電力を定年退職していて電労連所属組合員ではなく、また電労連規約上の権利義務は何一つ有しないから組織内候補者ではない。
と陳述した。
被申請人代理人は、「本件仮処分申請を却下する。訴訟費用は申請人らの負担とする」との裁判を求め、申請の理由に対する答弁として
一、申請の理由第一の事実はすべて認める。
二、(一) 申請の理由第二の一の事実のうち、冒頭の、本件臨時費中参議院議員選挙における電労連上納分一〇〇円と同じく地方区選挙のための五〇円とがともに特定政党のための選挙活動資金であるとの点は否認する。本件臨時費中には、全国区については組織内候補者片山武夫に対し、また地方区については関労の推せんする民主社会党候補者四名、社会党候補者九名に対しそれぞれ提供する政治活動資金が含まれているが申請人らのいうような特定政党ないし特定候補者を支援する単なる選挙資金ではなく、その外組合員に対する政治意識の啓蒙、団結力の強化等の政治活動資金をも含むものである。そして、労働組合が、労働者の生活利益の擁護、経済的地位の向上を図るため、すすんでその支持政党を通じて政治活動を展開することは、使用者に対抗するうえで必要なばかりでなく、電力事業にみられる官僚支配の強いところでは一層その必要があり、かかる場合に組合が団結して行動し得られるよう統制権の行使は当然許容さるべきである。ことに、本件臨時費徴収に関する一般指令一号は、単に組合員一人当り二〇〇円という僅少な金額を納付させるもので、決して組合員個人としての政治活動の自由や選挙運動の自由を侵害するものではないので、申請人らのいうこれが法的拘束力を有しないとの主張は理由がない。
(二) 申請の理由第二の二の事実のうち、(一)の本件懲戒処分決定に当り慎重な配慮が欠けているとの点、(二)の従来、政治活動資金の徴収が任意カンパ方法によつてのみなされたとの点、昭和三九年八月の第一三回定期大会の決定が主張のとおりでこれと本件一般指令一号の内容とが矛盾するとの点、本件臨時費徴収決定に際しいわゆる大衆討議の機会が与えられなかつたとの点、(三)の本件一般指令一号については、関労の機関にあて、申請人らが再三異議を申立て、他の多数の組合員がこれに反対してその意見を表明し、またその再検討や職場討議を求めたが、関労はこれに対し適切な方法をとらなかつたとの点、(四)の従来一般指令違反者を懲戒処分したことがないのに本件では少なからぬ者が懲戒に付されたとの点はいずれも争う。その余は認める。関労においては、従来より政治活動資金の徴収方法について機会ある毎に討議を重ね、その都度臨時徴収または任意カンパの方法をとつていたが、昭和三七年の参議院議員選挙の資金徴収に関する同三六年一一月から一二月にわたる申請人主張の各種委員会の決議にしたがい、同三八年七月開催の第一二回本部定期大会で、国会議員等の候補者推せん基準、関労政治活動基金規程、選挙斗争推進基準等に関する一連の予備提案を行い、これに基き、同三九年四月、全組織内一斉に大衆討議を実施して問題に対する意見の集約と原案の理解に努めたが、その際政治活動基金の予算上の不備が指摘されたので、同年八月開催の第一三回定期大会では、政治活動基金規程以外の条件は承認されたが、右規定については次期大会に再提案することとし、本年度は政治資金の恒常的拠出を制度化するとの精神に基いてその運営を考慮することが決定された。そこでこの大会決定方針に基いて同年一二月一六日開催の第一六回本部執行委員会で組合員一人当り二〇〇円の臨時費徴収を行うことが決定され、申請人ら主張の第七一回本部委員会で右臨時費徴収が承認決議されたので、同日付で本件一般指令一号を発令した。このように本件は三年有余にわたる慎重な検討を重ねて決定されたものである。なお、申請人らの本件一般指令に対する再検討の要請は、本件臨時費納入締切日の後である昭和四〇年三月三日、そのうち東厳一人から文書による質問があつた外は処罰後に控訴の申立があつたに過ぎない。また政治活動資金を任意カンパ以外で徴収した例としては、責任カンパ方法で昭和二九年二月組合員一人当り一〇〇円を、指名臨時徴収方法で同年四月組合員一人当り一〇〇円を、また臨時費徴収方法で同三一年一月二〇日一般指令八号として、同三三年一二月五日一般指令九号として、いずれも組合員一人当り一五〇円をそれぞれ徴収している。次に一般指令違反で懲戒した例としては、昭和三五年一月三〇日、滋賀地区組合員川端光男を一般指令違反の理由で権利停止六ケ月の処分に付している。さらに本件一般指令一号違反で懲戒した者は、申請人らのほかには僅かに六名を納入期日(昭和四〇年二月末日)に遅れたため譴責処分に付したに過ぎない。
したがつて、本件懲戒処分が統制権の乱用によるもので無効であるとの申請人らの主張もまた理由がない。と述べた。
(疎明省略)
理由
一、懲戒処分および根拠規定
申請人らがいずれも関労の組合員であること、関労が、昭和四〇年六月一〇日、申請人らに対し、申請人らの組合員としての権利を一年間停止する旨の本件懲戒処分を通知したこと、その理由とするところは、関労は、昭和三九年一二月二二日組合員に対し、同日開催の第七一回本部委員会の本件承認決議を経た一般指令一号として「昭和四〇年度の参議院議員選挙を斗い、またその他の政治活動のため、一般指令で一月賃金より臨時費として組合員一人あたり金二〇〇円を徴収する。その内訳は、参議院議員全国区選挙のため電労連上納分として一〇〇円、同地方区選挙のため五〇円、政治活動基金として五〇円とする」旨の臨時費徴収を指令したのに申請人らはこの臨時費を支払わないもので、それは関労の組合規約第六八条第一項に該当するというものであることは当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない甲第一号証によれば、右規約第六八条は、組合員の懲戒に関するもので、その第一項は「綱領、規約及び決議に違反した時」を懲戒事由として規定していること、また同第六九条にはその懲戒処分の種別として、警告、譴責、権利停止及び除名の四種の定めのあることが認められる。
二、懲戒処分の効力
申請人ら代理人は、まず本件懲戒処分は関労規約第六八条第一項に該当する事由なくしてなされたもので無効である旨主張するので、以下この点について検討する。
(一) 成立に争いのない甲第三号証の一、二、第五号証、申請人ら各本人尋問の結果および弁論の全趣旨を綜合すれば、申請人らは本件臨時費二〇〇円のうち、参議院議員全国区選挙のための電労連上納分一〇〇円と同地方区選挙のための五〇円については、それが特定政党所属の特定候補者の選挙運動資金を含む政治活動の費用に充当されるものであるが、申請人らはその特定政党及びその所属特定候補者とその政治的信条(良心)を異にしている(いかなる点で異なるかはその性質上これを明かにする必要はない)うえ、その納入を組合員に強制することは労働組合の性格からみても疑義の存することなどを理由にこれを納入しない意思を表明したが、関労の恒常的な政治活動基金に充当される五〇円についてはその納入義務を認め、各所属の支部機関にその受領方を申入れたが、本件臨時費二〇〇円は、これを不可分のものとして納入させる趣旨のものであるところから、関労においてその受領を拒否したことが認められる。
また成立に争いのない甲第六、第七、第九号証、証人上島信雄の証言および弁論の全趣旨を綜合すると関労においては、従来から参議院議員、衆議院議員の選挙に際しては、民主社会党及び社会党を支援していたが、その政治活動の恒常的指針の定らないまま、その都度これを決定していたので、その政治活動資金の徴収方法をも含めて組合の政治活動のあり方について恒常的な活動基準を決定すべく組織内における討議がくり返された結果、昭和三八年七月開催の第一二回本部定期大会において、議員推せん基準、選挙斗争推進基準、関労議員団内規、政治活動基金規程の予備提案が行われ、以後一年間下部組織における啓蒙活動ないし組合員による討議(いわゆる大衆討議)を経たのち、政治活動基金規程を除くその余の案件は、同三九年八月開催の第一三回本部定期大会で承認されたが、政治活動基金規程案については、さらに検討を加え次期大会に提案することとし、同年度は右規程案の精神に基いて運営を考慮するとの決定がなされたに止まつたこと、なお右規程では政治活動基金の使用目的は選挙陣中見舞金、上納金、政党献金などとされていたこと、ところが、昭和四〇年には参議院議員選挙が行われることになつており、関労としても、電労連から指示のあつた選挙資金としての組合員一人当り一〇〇円の割合の上納金を含む選挙活動資金を早急に確保する必要に迫られていたので、同三九年一二月二二日開催の第七一回本部委員会において政治活動資金二〇〇円を臨時徴収することについて討論の結果、本件承認決議がなされ、この決議に基いて本件一般指令一号を発令したこと、その支持候補者としては、右第一三回本部大会において全国区の候補者として電労連の推せんする民主社会党候補者片山武夫を支持推せんする旨の決議を行い、ついで右第七一回本部委員会においては、本件臨時費徴収決定に先立ち地方区の第一次推せん候補者として民主社会党公認候補四名、社会党公認候補二名を決定していたこと、本件臨時費の使途としては、そのうち電労連上納分一〇〇円は、電労連を通じて主として右全国区候補片山武夫の選挙運動資金に使用されるものであること、また地方区選挙のための五〇円はその大部分が各地区本部に対し前記決定にかかる地方区候補者の選挙運動資金とするため交付されることが予定されていたことが認められる。すなわち本件臨時費のうち右の計一五〇円は、昭和四〇年度参議院議員選挙に際し関労の支持推せんする特定政党である社会党及び民主社会党所属の特定候補者のためその選挙運動資金に充てることの目的をもつてその徴収決議がなされたことは明かである。
なお、証人上島信雄の証言によれば、関労が、右認定のように社会党及び民主社会党所属の候補者を支援することを定め、それに必要な資金を支出するため本件臨時費徴収を決定したのは、電力事業はその企業の性格から政治に関連する分野が多く、そのうちには電力労働者の労働条件を向上させるうえで障害となつているものもあり、関労として政治活動ことに国会議員の選挙で関労と意見を同じくする右特定政党に属する特定候補者の支援活動をすることは、関労所属の組合員の労働条件の向上を図ることとなり、関労の本来的目的の実現に役立つものと考えたためであることが認められる。
(二) 惟うに、労働組合は、本来組合として政治活動をすることができ、したがつて特定政党とそれに所属する特定候補者を支持することもできるけれども、その意思決定は、その所属組合員個人の政治的信条(良心)に基く政治活動ことに政党支持の自由を一般的包括的に制限禁止するものでないことを要し、これに抵触しない限り、この意思決定に基いて、特定政党ないし特定候補者のための選挙運動資金を含む政治活動の費用を支出することのできるものであることは勿論、このような費用として支出するために、組合機関の決議をもつて臨時費等の組合費として徴収することもまた許されるべきものであり、その徴収決議に違反した者に対しては、組合規約の定めるところによりこれを処罰することもできるものである。しかしながら、この組合の意思決定(組合機関の決議)に同調しない組合員のうちその政治的信条(良心)にしたがつてかかる組合費の納入を拒む者については、かかる政治的信条(良心)が憲法第一九条、第二一条に定める思想及び良心の自由とこれに基く表現の自由に関するものであることに鑑みるときは、その納入を拒むことについて特別の免責事由があるものと解すべきであるから、かかる者に対してはその違反がないことに帰し、これを処罰することもまた許されないものである。
これを本件にみるに、昭和四〇年度の参議院議員の選挙に関し、関労は、その本来的目的の実現に役立つものとして、前記認定のように社会党及び民主社会党所属の各候補者を支援することを定め、それに必要な選挙運動資金を含む政治活動費用を支出する目的をもつて本件臨時費なる組合費として徴収するため本件承認決議を経て一般指令一号を発令したところ、申請人らは、右臨時費のうち電労連上納分一〇〇円と地方区選挙のための五〇円とについては、それらが前記認定のように特定政党所属の特定候補者の選挙活動資金に充当されるもので、これを納入することは、申請人らの政治的信条(良心)に反するとしてその納入を拒んだことから、関労は、申請人らのかかる臨時費納入拒否は、組合規約第六八条第一項に定める「決議に違反した時」に当るとして、同第六九条に定める権利停止を選択して申請人らを本件懲戒処分に付したものであるが、申請人らが、右のように本件臨時費の納入を拒んでいるのは、その主たる支出目的である関労の支持する特定政党の特定候補者と政治的信条を異にしていて支払えない、というのであるから、その納入を拒むことについて特別の免責事由があることとなり、右規約第六八条第一項に定める「決議に違反した時」に当らないので、これに該当するとしてなした本件懲戒処分は無効である。
三、仮処分の必要性
次に、成立に争いのない甲第一号証と申請人ら各本人尋問の結果によれば、申請人らは、従来から積極的な組合活動家であり、また本件処分により役員の選挙権、被選挙権、大会その他の会議における発言権等組合員としての基本的権利の行使を現に停止されていることが認められ、本件懲戒処分に関する本案判決の確定をまつていては、権利停止期間の事実上の徒過により救済の機会を逸して著しい損害を受けることが明かであるから、本件懲戒処分の効力を仮りに停止する本件仮処分の必要性を肯定せざるを得ない。
四、結論
よつて、申請人らの本件仮処分申請は理由があるから、保証を立てさせないで、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 富田善哉 滝口功 弘重一明)